心筋カルシウムの測定
- Orange Science
- 2月25日
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心筋カルシウムの測定とは
心筋カルシウムの測定とは、心筋(心臓の筋肉)におけるカルシウムイオン(Ca²⁺)の濃度や動態を評価する方法です。カルシウムは心筋細胞の興奮収縮連関(excitation-contraction coupling)において重要な役割を果たし、不整脈や心不全などの病態とも関連があります。
測定方法
心筋のカルシウム測定には以下のような方法があります。
蛍光指示薬を用いた測定
Fura-2, Fluo-4, Indo-1 などの蛍光カルシウム指示薬を用いて細胞内カルシウム濃度を可視化。
蛍光顕微鏡や共焦点顕微鏡を使用。
電気生理学的測定(パッチクランプ法)
カルシウム電流(I_Ca)を直接測定。
電位依存性カルシウムチャネルの機能解析に使用。
イメージング技術
2光子顕微鏡や蛍光寿命イメージング(FLIM)を用いた詳細な観察。
同位体標識(放射性カルシウム)
45Ca²⁺を用いたカルシウム流入・流出の測定。
分光分析・質量分析
ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)などを用いて組織の総カルシウム量を測定。
これらの方法は、心筋の生理的・病理的状態の解析に用いられ、例えば心不全や虚血再灌流障害におけるカルシウム動態の異常を調べるのに役立ちます。
心筋カルシウムの測定をする目的
心筋カルシウムの測定を行う目的は、心筋細胞内のカルシウムイオン(Ca²⁺)の動態を明らかにし、心臓の機能や病態を理解することにあります。具体的には、以下のような目的があります。
1. 心筋の興奮収縮連関(Excitation-Contraction Coupling)の解析
心筋収縮は、細胞内カルシウム濃度の変化によって制御されるため、カルシウム動態を測定することで、心筋の正常な機能や異常を評価できる。
カルシウムの放出・取り込みに関わる小胞体(サルコメレチキュラム, SR)やカルシウムチャネルの役割を解析。
2. 心疾患の病態解明
心筋カルシウム動態の異常は、多くの心疾患と関連しています。
心不全:細胞内カルシウムの取り込みが低下し、収縮力が弱まる。
不整脈:異常なカルシウムの流入・放出により、心拍リズムが乱れる。
虚血再灌流障害:酸素供給の回復時にカルシウム過負荷が生じ、細胞死を引き起こす。
3. 新規治療薬の評価
カルシウムチャネル阻害薬やβ遮断薬などの効果を評価するために、カルシウム動態の変化を測定する。
創薬プロセスにおいて、候補化合物の影響を解析。
4. 再生医療や細胞治療の評価
iPS細胞由来心筋細胞(iPSC-CMs)などを用いた研究で、移植細胞の機能評価を行う。
心筋細胞の成熟度や電気生理学的特性をカルシウム測定によって確認。
5. 運動やストレスによる心筋の適応研究
運動負荷や加齢による心筋の適応機構を研究し、スポーツ医学や老年医学に応用。
このように、心筋カルシウムの測定は基礎研究から臨床応用まで幅広く活用され、心臓病の理解や治療法の開発に貢献しています。
心筋カルシウムの測定を行うメリット
心筋のカルシウム動態を測定することには、以下のような重要なメリットがあります。
1. 心筋機能の詳細な理解が可能
心筋の収縮・弛緩は細胞内カルシウム濃度の変化によって制御されるため、その動態を測定することで正常な心筋機能を深く理解できる。
特に興奮収縮連関(excitation-contraction coupling)の解析に有用。
2. 心疾患のメカニズム解明
心不全、不整脈、虚血再灌流障害などの病態では、カルシウムの異常な動きが関与。
疾患モデル動物や患者由来細胞を用いた研究で、病態メカニズムを明らかにできる。
3. 創薬・治療薬の評価に有用
カルシウムチャネル阻害薬や心筋保護薬の効果を正確に評価できる。
副作用のリスクを事前に予測し、安全性の高い治療法を開発可能。
iPS細胞由来心筋細胞を用いた細胞治療の評価にも応用。
4. 早期診断・個別化医療の可能性
心筋カルシウムの異常を早期に検出し、疾患の進行を予測。
遺伝子変異による心筋病(例:肥大型心筋症)などで、患者ごとに適した治療法を選択できる可能性。
5. 運動生理学・加齢研究への応用
運動トレーニングや加齢による心筋の適応変化を解析し、スポーツ医学や老年医学に貢献。
心筋のストレス耐性向上メカニズムを解明し、予防医学にも活用。
6. 高感度・多様な測定手法が利用可能
蛍光指示薬、電気生理学、質量分析、イメージング技術など、多様な手法で測定できる。
生体内・生体外の両方で解析可能なため、基礎研究から臨床応用まで幅広く対応。
心筋カルシウム測定は、心筋の基本機能の理解、疾患のメカニズム解明、創薬・個別化医療、運動・加齢研究など、幅広い分野でメリットがあります。特に、病態解析や治療法開発において重要な役割を果たし、心疾患の予防・治療に貢献する可能性があります。
心筋カルシウムの測定が活用される分野
心筋カルシウムの測定は、以下のようなさまざまな分野で行われます。
1. 基礎医学研究
心筋の興奮収縮連関やカルシウム動態のメカニズムを解明するために、細胞レベルや動物モデルを用いた研究が行われます。特に、生理学や細胞生物学の分野で重要な役割を果たします。
2. 循環器疾患研究
心不全、不整脈、虚血性心疾患などの病態解析のために、心筋カルシウムの異常を調べる研究が行われます。これにより、新たな治療法の開発や疾患の進行メカニズムの解明が進められます。
3. 創薬・薬理学
カルシウムチャネル阻害薬やβ遮断薬などの作用を評価するために、心筋細胞のカルシウム動態が測定されます。新規治療薬の開発や、副作用のリスク評価にも活用されます。
4. 個別化医療・遺伝子研究
遺伝的な心筋疾患(肥大型心筋症、拡張型心筋症など)の患者由来細胞を用いて、カルシウム動態の異常を解析する研究が行われます。これにより、個々の患者に適した治療法の開発が期待されます。
5. 再生医療・細胞治療
iPS細胞由来心筋細胞を用いた心筋再生研究において、移植細胞の成熟度や機能評価のためにカルシウム測定が行われます。これにより、安全で効果的な細胞治療の実現を目指します。
6. スポーツ医学・加齢研究
運動による心筋の適応や加齢に伴う心筋機能の変化を調べるために、カルシウム動態の測定が行われます。これにより、心疾患の予防や健康寿命の延伸に貢献します。
このように、心筋カルシウムの測定は、基礎研究から臨床応用まで幅広い分野で活用されています。
心筋カルシウムの測定のアプリケーション例
心筋カルシウムの測定は、さまざまな研究や臨床応用に利用されています。以下に代表的なアプリケーションの例を挙げます。
1. 心不全の病態解明と治療法開発
目的:心不全では、心筋細胞のカルシウム動態が異常をきたし、収縮力が低下します。カルシウム測定により、その病態メカニズムを解明し、新しい治療標的を特定できます。
応用:
カルシウムハンドリングに関与するタンパク質(例: SERCA2a, RyR2, NCX)の機能解析
遺伝子治療や薬物療法(例: β遮断薬、SERCA2a活性化薬)の効果検証
2. 不整脈のメカニズム研究と薬剤評価
目的:心筋細胞内のカルシウムの異常な蓄積や過剰な放出は、不整脈を引き起こす要因となります。カルシウム測定により、異常なカルシウム動態を検出し、不整脈の予防・治療法を検討できます。
応用:
Ca²⁺過負荷による心室細動の発生メカニズムの解明
カルシウムチャネル阻害薬や抗不整脈薬の効果評価
3. iPS細胞由来心筋細胞(iPSC-CMs)の機能評価
目的:再生医療や創薬スクリーニングで使用されるiPSC由来心筋細胞の成熟度や機能を評価するために、カルシウム測定が用いられます。
応用:
iPSC-CMsの成熟度評価(Ca²⁺トランジェントの速度・振幅の測定)
遺伝性心筋疾患モデルの作成と解析(例: LQT症候群、肥大型心筋症)
移植用心筋細胞の安全性試験
4. 虚血再灌流障害(IRI)の研究
目的:心筋梗塞後の再灌流時に発生するカルシウム過負荷は、細胞死の原因となります。カルシウム測定を用いることで、IRIの病態を解明し、保護戦略を開発できます。
応用:
カルシウム過負荷を抑制する薬剤の開発(例: Na⁺/Ca²⁺交換系阻害薬)
虚血耐性心筋(プレコンディショニング)のメカニズム解析
5. 運動や加齢による心筋の適応研究
目的:運動トレーニングや加齢による心筋の適応変化を解析し、健康寿命の延伸や心疾患予防に貢献します。
応用:
運動習慣がカルシウム動態に与える影響の解析
加齢によるカルシウム制御機構の変化と心不全リスクの評価
6. 創薬スクリーニングと安全性試験
目的:新規医薬品の心毒性評価(例: QT延長症候群のリスク)や心筋機能への影響を解析するために、カルシウム測定が利用されます。
応用:
ヒトiPSC由来心筋細胞を用いたin vitroスクリーニング
カルシウムシグナルの異常を指標とした心毒性試験(hERGチャネルの評価と併用)
心筋カルシウムの測定は、心不全や不整脈の研究、創薬スクリーニング、iPSC由来心筋細胞の評価、虚血再灌流障害の解析、運動・加齢研究など、幅広い分野で活用されています。これにより、心疾患の理解が深まり、新たな治療法や予防策の開発が進められています。
心筋カルシウムの測定に使用される装置
心筋カルシウムの測定には、さまざまな装置が使用されます。測定方法に応じて、以下のような装置が利用されます。
1. 蛍光顕微鏡・共焦点顕微鏡
用途:蛍光指示薬(Fura-2, Fluo-4, Indo-1 など)を用いたカルシウムイメージング
代表的な装置:
共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)
二光子顕微鏡
高速カメラ搭載蛍光顕微鏡
特徴:
細胞や組織レベルでのリアルタイム観察が可能
共焦点顕微鏡では、特定の細胞内小器官でのCa²⁺シグナル解析ができる
2. イメージングプレートリーダー
用途:高スループットのカルシウム測定(創薬スクリーニングなど)
特徴:
96ウェルや384ウェルプレートで一度に多数のサンプルを測定可能
医薬品スクリーニングや安全性試験に活用
3. パッチクランプ装置(電気生理学的測定)
用途:カルシウム電流(I_Ca)や膜電位変化の直接測定
特徴:
単一細胞のカルシウムチャネルの機能解析が可能
イオンチャネル阻害薬の作用評価に適用
4. フローサイトメーター
用途:多数の細胞のカルシウムシグナルを一括解析
特徴:
細胞ごとのカルシウム濃度分布を統計的に解析可能
薬剤応答の評価に利用
5. 質量分析計(ICP-MS)
用途:組織・細胞内の総カルシウム量を高精度で測定
特徴:
高感度・高精度でCa²⁺濃度を定量化可能
生体試料中の微量元素分析にも応用
6. カルシウムイメージング用特化システム
用途:リアルタイムで心筋細胞のカルシウムトランジェントを測定
特徴:
心筋の拍動に伴うカルシウム変化を動画で記録可能
iPS細胞由来心筋細胞の機能評価にも利用
心筋カルシウムの測定には、蛍光顕微鏡、プレートリーダー、パッチクランプ装置、フローサイトメーター、ICP-MS、専用イメージングシステムなど、多様な装置が使用されます。目的やサンプルに応じて最適な測定装置を選択することが重要です。
IonOptix社のMyoCyteシステムを用いた心筋カルシウム測定の活用方法
IonOptix社のMyoCyteシステムは、心筋細胞の収縮・カルシウム動態を測定できるシステムです。以下のような用途で活用できます。
1. 単一心筋細胞のカルシウムトランジェント測定
活用の目的:
心筋細胞の興奮収縮連関(Excitation-Contraction Coupling)の解析
細胞内カルシウムシグナルのリアルタイム測定
活用方法:
**指示薬を用いて、単一細胞のカルシウム濃度変化をリアルタイムで記録
収縮測定と組み合わせることで、カルシウム動態と収縮機能の関係を詳細に解析
応用例:
正常な心筋細胞と疾患モデル細胞(心不全モデルなど)でのカルシウム動態の比較
iPS細胞由来心筋細胞(iPSC-CMs)の成熟度評価
2. 創薬研究および薬理試験への応用
活用の目的:
心筋カルシウム動態に影響を与える薬剤の評価
新規治療薬のスクリーニングや安全性評価
活用方法:
Ca²⁺チャネル阻害薬、β遮断薬、強心薬を投与し、カルシウム応答や収縮力の変化を解析
不整脈リスクの評価
応用例:
抗不整脈薬の評価(カルシウム電流の影響測定)
心毒性試験(化合物が心筋収縮やCa²⁺動態に及ぼす影響を調査)
3. 心不全や不整脈の病態解明
活用の目的:
心筋カルシウムハンドリング異常を特定し、病態のメカニズムを解明
活用方法:
心不全モデルラットや遺伝性不整脈モデルマウスから単離した心筋細胞のカルシウム動態を測定
SERCA2a, NCX(Na⁺/Ca²⁺交換系)などの機能異常の解析
応用例:
心不全モデルにおけるカルシウム蓄積の影響を測定
カルシウム過負荷が原因の不整脈リスクの評価
4. iPS細胞由来心筋細胞(iPSC-CMs)の評価
活用の目的:
iPS細胞由来心筋細胞の機能解析と成熟度評価
活用方法:
自発拍動するiPSC-CMsのカルシウムトランジェントを測定し、成熟度を評価
成長因子や電気刺激を用いた成熟化プロトコルの効果を検証
応用例:
未熟なiPSC-CMsと成人心筋細胞のカルシウム動態の比較
遺伝性心疾患患者由来iPSC-CMsの機能解析(LQT症候群、肥大型心筋症など)
IonOptix社のMyoCyteシステムは、単一心筋細胞のカルシウムトランジェントと収縮測定を行える点が大きな特長です。そのため、心筋の生理学研究、創薬・薬理試験、心不全・不整脈の病態解明、iPSC-CMsの評価など、さまざまな分野で活用できます。
ー その他の製品紹介 ー
CytoMotion
CytoMotionは、iPS心筋細胞などの最大収縮速度や最大収縮速度までの時間、最大弛緩速度、弛緩/伸張時間などの重要なパラメータのリアルタイムでの分析を可能にします。

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位相差顕微鏡+AI画像解析により、高精度な収縮データ取得
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MyoStretcher(マイオ・ストレッチャー)システムは、画期的な光学フォーストランスデューサーによって、心筋細胞の力を測定することができるシステムです。特に心筋細胞の測定用に設計されており、この分野では、現在最も精度が高いシステムと言えます。

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